知恵の和ノート

2023/12/26

社員は「見ざる聞かざる言わざる」になるのを前提に対策を練る(第512話)

カテゴリー :経営者

経営者の長所を活かす部分は社員が担うことができるが、経営者の短所の影響を最小限に抑える部分を社員が担うことは難しいのを前提に、長く事業を続けていくという観点から必要な対策を立てる。

社員は「見ざる聞かざる言わざる」になるのを前提に対策を練る

今の自分だったら、あの時何をしたか?

ある経営者の方と打合せしていた際、私の前職の話題になって質問されました。


前の勤務先はGPS関連のベンチャー企業。

今の言葉で言えばスタートアップ企業と呼ぶかもしれませんが、「GPSとコンピューターを組み合わせたチップを開発し、それを使ったビジネスを展開していく」ということを目指していました。


そして、ベンチャーキャピタルを中心に2億円を資金調達し

・米国のGPS開発会社

・日本の大手メーカー

・大学の研究室

等と連携しながら、事業を進めていました。


私は2年半在籍していたのですが、最初の半年間のメインの仕事は資金調達。

事業計画を作り、いろいろな投資家を回って、もうすぐお金が底をつくかもしれないというギリギリのタイミングでなんとか2億円を集めることができたのです。


しかしながら、半年かけて集めたお金は2年間でほとんどなくなってしまいました。

詳しい経緯を書くと長くなるので、ここでは省略しますが、「今の自分だったら、あの時何をしたか?」という点から振り返ってみると、「経営者が抱えている課題を見て見ぬふりをしていた」ということがあります。


実は、入社して間もない時期に「この人、大丈夫かなぁ」と感じることがいくつかありました。

その経営者は外資系企業のご出身で米国のGPS開発企業の日本法人に勤めていたご経験もあり、プレゼンも上手く、とても優秀な方。他の取締役も「彼は天才だから」と一目置いていたこともあり、私も「この経営者を信じてついていくしかない」と思って、「大丈夫かなぁ」と感じた部分には目をつぶっていたのです。

しかしながら、後に「大丈夫かなぁ」と感じていた部分は大丈夫でなかったことになります。


ここで申し上げたいのは「何かしら欠点を抱えている経営者はダメだ」ということではありません。経営者の欠点をいろいろと上げて「だから会社が上手くいかないんだ」と後付けて結論づけることは簡単です。

けれども、大谷選手のように非の打ちどころがないような人は稀で、誰しも長所と短所を持っています。

そして、その短所の部分は自分では気がつかなくても他人が見るとすぐに気がつくことがあります。また、世の中的には「短所は気にせず、長所を伸ばそう」という風潮もあるので、たとえ気がついても短所を見て見ぬふりをすることもあります。

ましてや、それが「社長-社員」との関係のように上下の関係があると「この人、大丈夫かなぁ」と社員が感じても、それを社長に伝えることはありません。


私の反省点は「この人、大丈夫かなぁ」と気づいたけれども、「この経営者を信じてついていくしかない」と思って、不安に感じた件については深く考えることを止めて必要な対策を積極的に打たなかったことです。

もちろん、一社員として権限も限られていたので、考えた対策がどこまで実現できたかは分かりません。また、何かしら対策を打っても、それで結果が変わったかどうかは分かりません。

それでも、今の自分であれば、少なくとも2年間で2億円がほとんどゼロになる状況は防ぐことができたのではという思いがあります。


弊社では経営者のマインドを掘り下げて「感情」を整えることに取り組んでいますが、人はそれほど簡単に変わるものではありません。

ましてや、経営者として事業を推進するような人は誰かにアドバイスを受けたからといって、すぐに自分の考え方ややり方を変えることはありません。


一方で、会社経営を続けていくという観点からすると

  • 経営者の長所を活かす

部分と

  • 経営者の短所の影響を最小限に抑える

部分が必要になります。


そして、前者の経営者の長所を活かす部分は社員が担うことができますが、後者の経営者の短所の影響を最小限に抑える部分を社員が担うことは難しいのが一般的です。

多くの社員は経営者が抱えている課題に気づいても、過去の私のように見て見ぬふりをするか、さっと見切りをつけて、会社を辞めるかのいずれかです。


経営者は「自分の短所は誰も指摘してくれない」という前提で、必要な手を打つことが求められます。

それが、社外取締役なのか、監査役なのか顧問になるかのはやり方の問題。形式だけ整えても意味はないので、自分のやりたい事業を続けていくという観点から対策を練りましょう。


ちなみに、冒頭の質問に対して、私が最初に言った言葉は「もっと早く会社を辞めていたかも」でした(苦笑)。


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