知恵の和ノート
徳川家康の事業承継のやり方は現代でも通用するのか?(第507話)
自分の成功体験は人の成功体験になるとは限らないことを踏まえて、経営者は相手がオリジナルの成功体験を積むために知恵を絞る。
先日放送されたNHKの大河ドラマ「どうする家康」の中で、「徳川家康が息子である秀忠を大勢の人がいる面前で激しく叱責する」シーンがありました。
その後、家臣が家康に「あれでは秀忠が可哀想だ」として、今後は態度を改めるよう直訴すると、家康は
自分の場合は部下たちが自分を厳しく叱責してくれた
↓
それに比べると、息子の場合はあえて耳に痛いことを言ってくれる人が周囲にはいない
↓
だから、自分はあえて厳しく接している
旨を説明していました。
これはあくまでドラマなので、史実とは異なるかと思います。ただ、戦乱の世を収め、264年続く徳川幕府を作った神君家康の息子である二代目秀忠は「なにかにつけて必ず先代と比較される」運命にあったことは間違いありません。
この構造は会社の事業承継においても同じで、「先代社長がすごい実績を残した人であればあるほど、後継社長は必ず比較される」のが普通です。
このため、経営者の中には息子さんや娘さんに事業承継する前の段階で、ドラマの家康のように親心から「(他の社員と比べて)あえて厳しく接している人も少なくありません。
ただ、本人のために良かれと思ってやったことが必ずしも良い結果につながるとは限りません。
以前は凡庸な人という評価もあった徳川秀忠は、最近では家康の教えを忠実に守り、幕府の基礎を固めたと再評価されつつあります。それは本人の資質によるものなのか、周囲のサポートのお蔭なのかは議論のあるところです。
しかしながら、将軍であれ、経営者であれ、トップに立つ者は、最終的には結果によって評価が大きく変わります。
その結果を生むのは
・何をしたのか
・何をしなかったのか
という行動です。
そして、その行動の背景にあるのが、その人の思考であり感情になります。
何を申し上げたいかと言えば、
どういうことに感情が動き、どのように思考するか一人ひとり違う
↓
自らの経験に基づき、良かれと思ってやったことが相手の感情や思考とマッチして、期待している結果を生むとは限らない
ということ。
すなわち、たとえ、相手が家族や社員など身近な人であっても、「自分の成功体験は、人の成功体験にはならない」ということです。
他人のいる前で厳しく怒られて
・深く反省して態度を改める
・発奮して今まで以上に頑張る
・いろいろと理屈を並べて論破しようとする
・恥をかかされたと感じていじける
・「自分は悪くない」と思って殻に閉じこもる
かはあくまで本人次第。
一方、経営者は「自分がこれが正しい」と考えたことを改めるのは容易でありません。
弊社でもクライアント先の社長や部長に対して、「その成功体験は、人の成功体験になるとは限りませんよ」と時折お伝えしていますが、すぐに行動を変える人は稀です。
このような場合、効果があるのは「後継社長や幹部社員候補の人たち自身が捉え方を変える」ことです。
例えば、先代社長がイライラして後継社長を経営会議で叱責したとします。
怒られた方は「どうして、そんなことで怒るのか!」「昨日言っていたことと逆じゃないか!!」と反発したくなるのが普通です。
その際、自分への叱責をいったん冷静に受け止めて
・会長はなぜこんなにイライラしているのか?
・昨日の発言と違う理由はどこにあるのか?
・自分の提案を実現するために今何をするのがベストか?
といったことに思いを馳せることができたら、少なくとも
・恥をかかされたと感じていじける
・「自分は悪くない」と思って殻に閉じこもる
ことは避けられます。
もちろん、簡単なことではありませんが、「自分はどのようなことに感情が動き、どのように思考する傾向があるのか」を言葉として自覚できていると、やがてできるようになります。
人は自分をコントロールすることはできます。けれども、相手が社員であれ、家族であれ、自分以外の人をコントロールすることはできません。
自分の成功体験を人には強要せず、相手がオリジナルの成功体験を積むためには、どうしたら良いかを考えましょう。
なお、人は「できない理由やリスクを考える」から、「どうやったらできるかを考えるか」に思考のパターンを切り替えることができたら、結果は徐々に変わってきます。
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