ミセルチカラの磨き方
「その仕事、本当にやるべき?」見えないコストが利益を奪う瞬間
ヒーズ株式会社の岩井徹朗です。
「あの時はほんと焦りましたね」
前職で一緒に働いていた仲間3人と飲みに行った時のこと。話題に上るのは決まって、あるプロジェクトの納期に関する苦い思い出でした。
私が勤めていたのは、GPS関連の企画・開発を行うベンチャー企業。ある時、大手バス会社のナビゲーションシステム向けに自社製品を開発・納品するという大口のプロジェクトを受注しました。しかし、製品の仕様が二転三転し、プロジェクトは当初の予定より大幅に遅れていました。
そんな中、元請けの大手IT企業の担当者から相談を受けます。「御社の製品とバスの機材を結ぶ回線を何とかしたいんだけど。」
本来、この回線の手配は大手IT企業の管轄でしたが、下請けの当社に話が持ちかけられたのです。
社内で検討した結果、「ビジネスチャンスを逃すべきではない」という判断のもと、回線の手配も引き受けることになりました。しかし、これが大きな誤算でした。
納期と予算に合う生産先を見つけるのに苦労し、最終的に中国での製造を決定。しかし、いくら待っても回線が完成せず、社長自ら現地に乗り込み指導する事態に。ようやく生産が軌道に乗ったものの、時間的な遅れは取り戻せず、納期に間に合わせるために社員総出で対応することになりました。
徹夜作業の末に完成した回線を、宅急便では間に合わないため新幹線の荷物便で送り届ける、そんな綱渡りの対応が何度も続きました。今となっては笑い話ですが、会社全体を見れば、仕事の優先順位を誤った典型的なケースでした。
中小企業において、仕事の優先順位を決める際に重要なのは「機会費用」の概念です。
機会費用とは、「ある仕事を選んだことによって、別の仕事ができなくなる、もしくは後回しになることによる損失」です。目に見える売上やコストだけでなく、その仕事をやることによって失われる他の機会を常に考慮する必要があります。
このケースを振り返ると、
・回線の仕事を新たに受注したことで、本来優先すべき自社製品の生産がさらに遅延した
・納期がギリギリになり、材料の購入や物流コストが高騰した
・社員全員がこの仕事に集中したため、他の案件がすべてストップした
といった問題が発生しました。売上の増加を期待して引き受けた仕事が、結果的に会社の負担を増やし、他の重要なプロジェクトに悪影響を及ぼすことになったのです。
会社経営において、目に見えるコストは比較的管理しやすいものですが、見えにくい機会費用は後からじわじわと影響を及ぼします。特に「時間」は取り戻すことができません。お金の損失は努力次第で回収可能ですが、失われた時間は決して戻ってこないのです。
仕事を選ぶ際には「目の前の売上」だけでなく、「その仕事をやることで失うものは何か?」という視点を持つことが不可欠です。経営者やビジネスパーソンがこの考え方を身につけることで、より効果的な時間の使い方ができるようになります。
「時はカネなり」ではなく、「時はカネ以上」。
限られた時間とリソースを最大限に活かすために、機会費用を意識した仕事の選択を心がけましょう。
★関連する記事は
↓ ↓ ↓
仕事でやりたいことを優先する場合の留意点とは?
本人の感情や意思に関係なく取り組むべき仕事あり。それを見極め、仕事のパフォーマンスを上げるには、自分の感情の動きとそこから派生する思考の癖を踏まえて情報を取捨選択し、冷静に決断しよう。
ヒーズでは、弊社の日頃の活動内容や基本的な考え方をご理解いただくために、専門コラム「知恵の和ノート」を毎週1回更新しており、その内容等を無料メールマガジンとして、お届けしています。
上記のフォームにご登録いただければ、最新発行分より弊社のメールマガジンをお送りさせていただきます。お気軽にご登録いただければ幸いです。